消臭はできているのか
前々回・前回はオゾンによる消臭の理論的な部分について述べました。
今回はいよいよ実際の機器を稼働させ、その「消臭効果」について検討してみるものとします。
前回に引き続き、今回はあるオゾン生成能力[mg/h]を持つオゾン生成装置を一定期間稼働させた場合、空間内のオゾン濃度がど…
オゾンによる消臭はもっぱら、オゾンが分解される際に行われます。
しかし、いかにオゾンが分解しやすい物質といえど、自然に分解されるまでには相応の時間を要します。
では、オゾンによる消臭が即座に行われたと感じることがあるのはいったい何なのでしょうか?
幸か不幸か、私の手元には破格の安値で購入した20Wのオゾンランプ(殺菌灯)が複数個あります。
これは殺菌用途で買ったのではなく別の用途を意図していたのですが、今回実験のために使ってみました。
試してみた(1)
約半日、部屋の中でオゾンランプ2基を点灯した状態にします。
室内は換気などは行わずあえて換気が悪い状態に保ちます。
当然ながら、室内には独特の――オゾンの――匂いが充満する状態となりました。
――部屋に戻ってしばらくは。
試してみた(2)
*これ以降は本来行うべきではありません!*
その後、オゾンランプは点灯させたままとします。室内には依然としてオゾンが充満している状態となるはずでした。
ところがしばらくすると匂いが「消えて」しまいました。
オゾンの匂いに慣れた疑いもあったので、手元にあったチューハイ――アルコール――の缶を開けてみたのですが、この臭いも感じないんですよね。
さすがにこれはおかしいと思い、スピリタス*196%の強烈なお酒。猛烈なアルコール臭がする。を嗅いだらさすがに臭いはしたのですが‥。
なお、目などは刺激を感じた状態で、ずっとしょぼついた状態が続いていました。
この点からも、かなりの濃度のオゾンが室内に充満していたことは容易に想像がつきます。
以上からいえること
オゾンによる「消臭」といわれるものは、実は嗅覚が麻痺しただけではありませんか?
当然、嗅覚が麻痺すれば臭いは感じません。
しかし、それをもって「消臭」というのは大きな過ちでしょう。
特に、本来感知すべき臭いまで「消臭」してしまうというのは人間にとって大きな危険を招く行為です。
(たとえば、プロパンガスや都市ガスは本来無臭であるが、ガス漏れを感知できるようわざと悪臭が付けられている。)
オゾンによる殺菌
昨今のコロナ禍の影響で、にわかにオゾンが殺菌用に注目を集めています。たとえば。
新型コロナ 低濃度オゾンガスで感染力抑制効果 藤田医科大学 | 医療 | NHKニュース
日本の作業環境基準で健康には影響が出ないとされる「0.1ppm」という低濃度のオゾンガスを発生させて影響を見る実験を行いました。
その結果、湿度80%の条件のもとでは、10時間後には感染力のあるウイルスの量が、処理しなかった場合の4.6%にまで減少したまた、さらに濃度が低い「0.05ppm」で実験した場合でも、20時間後には、感染力のあるウイルスの量が5.7%にまで減少した
なるほど、これは朗報かもしれません。ですが、よく考えてみましょう。
- 即座に殺菌が可能な高濃度オゾンに人間が晒された場合、死亡もしくは重篤な後遺症が残る可能性がある。
- そもそも、そこまで濃度を高めること自体が市販の機器では難しいのではあるが。
- 市販のオゾン生成装置でも、自宅程度の広さであれば0.1[ppm]以上のオゾンは容易に得ることができる。
が、同時にその閾値も容易に超えてしまう。 - 仮に低濃度でコントロールしようとすると、今度は「オゾンは気体で漏出しやすい」ことが足を引っ張る。
すなわち、ある程度人の出入りがある環境下においては、殺菌に不向きな程度までオゾン濃度が低下する(濃度がそのまま回復しない)ことが想像される。 - また、その程度のオゾン濃度であったとしても、その空間内の物質に悪影響を及ぼす可能性がある。
はたして、これで「殺菌」はできるのでしょうか?
オゾンという物質の特性を考えると甚だ疑問ではあります。
まとめ
以上3日間に亘ってオゾンの特性と利用について検討してみましたが、現状私の結論は以下の通りです。
- オゾンを利用する際は、人体に対する危険性はもちろんではあるが、物質に対する危険性も考慮しなければならない。
- オゾンによる「消臭」は、実は単なる嗅覚麻痺である可能性が多分にある。
- この嗅覚麻痺による「消臭」は、消臭とはいえないどころか却って危険を招く行為である。
- したがって、オゾンによる「消臭」機器については、そのメカニズムを吟味の上、慎重に選定する必要がある。
- オゾンによる殺菌は、オゾンの有害性(対生物・対物双方において)を考慮すれば、少なくとも個人レベルでは考慮すべきではない。
COVID-19は確かに怖いのですが、だからといってオゾンや殺菌灯のような、扱いが難しい機器に素人が安易に頼るのは危険でしょう。
実際のところ、アルコール――これにも危険性はあるが――や手洗いなど、「初歩」ともいうべき対策が最も効果的というのが実情ではないでしょうか。
注釈
↑1 | 96%の強烈なお酒。猛烈なアルコール臭がする。 |
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