前回に引き続き、今回はあるオゾン生成能力[mg/h]を持つオゾン生成装置を一定期間稼働させた場合、空間内のオゾン濃度がどのように変化するのかについて計算式をまとめてみます。
昨今、COVID-19 の影響もあり、オゾンランプ(殺菌灯)を含め、オゾンによる殺菌・消臭を謳った製品は市場に多数出回っ…
ただし以下の式は、空間からオゾンが漏出することはないと仮定し、オゾンが分解されることを考慮しない*1オゾンは不安定な物質であるため、時間経過により分解されうる。、いわば「理論値」である旨ご了承ください。
なお、オゾン濃度の推定に際しては空間の容積の測定が必須となります。
特に、一定以上の広さを持つ部屋の幅や天井高さの測定には難渋する可能性が高いので、このようなレーザ距離計付きの巻尺を用意しておくとよいでしょう。
注意点(1)
オゾン生成装置の能力は、単位時間当たりの重量すなわち[mg/h]などで表すのが基本となります。
まれにこれを[ppm]などで表記している製品がありますが、[ppm]は濃度を表す単位であるため、生成能力を示す単位としては不適切です。このような製品は信頼がおけないため、購入しないようにしましょう。
むろんですが、昨日述べたプラズィオンのような外部へのオゾンの漏出を意図していない機器を除き、オゾン生成能力を示していない機器の購入も避けるべきです。下記の計算式に当てはめるとわかるのですが、オゾン濃度は比較的容易に高濃度に上昇します。
また、少々厄介になってくるのがオゾン生成能力を有する殺菌灯・オゾンランプです。
これについてはオゾンの発生量を明記している場合がなく、どの程度のオゾン生成能力を有するのが明確ではありません。
ただし、オゾンランプは強度の紫外線を放射しており、点灯中は同じ室内にいるべきではありません。オゾンの害よりもまずそちらを心配すべきでしょう。
なお、オゾンランプは国産の出元がはっきりしたものを購入すると非常に高額になる。
一応、非常に安価な製品がAmazonなどに流れ込んではおり、私も購入はしたが、見極めは難しいのが実情。
オゾン濃度の計算
理論値の算出
いま、容積 V\,[m^{3}]
の空間で、オゾン生成能力が q\,[mg/h]
の製品を t\,[h]
稼働させたとします。
このとき、発生するオゾンの量をモル数に変換すると、オゾンのモル質量は 48\,[g/mol]
(酸素(モル質量 16\,[g/mol]
)が3つ結合したのがオゾンであるから)であることから、以下の量のオゾンが発生したこととなります。
t \times \frac{q\times10^{-3}}{48}\,[mol]
このオゾンを理想気体と仮定すると、標準状態(1気圧・0℃)においては、22.4\,[\ell/mol] \ = \ 22.4\times10^{-3}\,[m^{3}/mol]
であることから、以下の容積のオゾンが発生したこととなります。
t\times\frac{q\times10^{-3}}{48}\times22.4\times10^{-3} \ = \ \frac{22.4qt}{48}\times10^{-6}\,[m^{3}]
発生させた空間の容積が V\,[m^{3}]
であることから、このときの濃度を求めると以下の式になります。(ppm \ = \ 10^{-6}
)
\begin{aligned}
\frac{22.4qt}{48}\times10^{-6} \div V \ &= \ \frac{22.4qt}{48V}\times10^{-6}\\
&= \ \frac{22.4qt}{48V}\,[ppm]\\
&\fallingdotseq \frac{qt}{2.14V}\,[ppm]
\end{aligned}
実際の値の概算例
上記の値はあくまで分解等を考慮しない理論値であり、これを3で除した程度の値とみるのが実際的な値に近いようです。
1[mg/h]の製品をトイレで使用した場合
たとえば、このようなオゾン生成能力が 1\,[mg/h]
という非常に控えめな製品(狭小空間での使用を意図したもの)を3時間トイレで稼働させた場合、トイレの容積を概ね 5\,[m^{3}]
*2これは店舗の個室トイレで測った値なので、一般家庭ではこれよりも若干容積は少ないであろう。)と仮定して上式にあてはめると、
\frac{22.4\times1\times3}{48\times5}\,[ppm]\ = \ 0.28\,[ppm]
これはあくまで分解や換気等を考慮しなかった場合であるため、上記のごとく3で除すると概ね 0.093\,[ppm]
程度となります。
したがって、この程度なら健康に及ぼす被害はまずないと推定することが可能です。
なお、実際にはトイレは開閉による換気等も発生するであろうことを考慮すると、人の出入りがそれなりにあるトイレでは、これらの機器を常時 ON にしておいても影響は僅少ではないかとも推定できます。
20[mg/h]の製品を一坪の浴室で使用した場合
たとえば、このようなオゾン生成能力が 20\,[mg/h]
というを2時間浴室で稼働させた場合、浴室の容積を概ね 8.25\,[m^{3}]
(天井高さ2.5[m])と仮定して上式にあてはめると、
\frac{22.4\times20\times2}{48\times8.25}\,[ppm]\ = \ 2.26\,[ppm]
一気に危険な濃度となりました。一応これは、分解や換気等を考慮しなかった場合であるため3で除してみますが、それでも概ね 0.75\,[ppm]
程度と依然高い水準となります。
労働衛生的許容濃度が 0.1\,[ppm]
と考えれば、これは十分に健康に有害な値とみるべきでしょう。
100[mg/h]の製品を六畳間で使用した場合
Amazonではこのような、100\,[mg/h]
という高いオゾン生成能力を持つ製品も販売しています。イメージ写真を見ると、いかにも「無害」そうに見えますが、これを1時間運転したとして計算してみるとどうなるでしょうか。(なお、天井高さは浴室同様2.5[m]と仮定します。)
\frac{22.4\times100\times1}{48\times24.75}\,[ppm]\ = \ 1.89\,[ppm]
これを3で除すると 0.63\,[ppm]
となり、これも1時間の稼働で十分危険量に到達します。
六畳間というある程度の広さを持つ空間でこれですので、これより狭い空間で常時稼働させたらどうなるかは想像に難くはないでしょう。
注意点(2)
上記の式で求めた濃度はあくまで、理想的に拡散が行われた場合の濃度です。
オゾンは比重が大きいことなどから、無風状態でオゾンを発生させると局所的な「オゾンだまり」ができ、そこだけ濃度が高まる、すなわち局所的に危険となりうる事態も考えられます。
したがって、オゾンを万一発生させた場合は、その拡散にも気を払うべきでしょう。
今回のまとめ
- 容積
V[m^{3}]
の空間で、オゾン生成能力がq\,[mg/h]
の製品をt\,[h]
稼働させた場合の理論上の濃度は以下の値で近似することができる。
\frac{qt}{2.14V}\,[ppm]
- 実際の取り扱い上は、上記の式で求めた値を3で除した程度の値とみるのが適当である。
- その値であっても、常時稼働するには危険を伴う製品が少なくない。
- 以上のことから、オゾン生成装置の購入に際しては、綿密な計算を要する。
- である以上、オゾンを機器外部に放出するタイプの製品で、オゾン生成能力が明白ではない製品の購入は避けるべき。
次回は、いよいよその「消臭」を、私自身で試してみるものとします。
目次 1 消臭はできているのか1.1 試してみた(1)1.2 試してみた(2)1.3 以上からいえること2 オゾンによる…