オゾンによる殺菌・消臭について(1/3)

昨今、COVID-19 の影響もあり、オゾンランプ(殺菌灯)を含め、オゾンによる殺菌・消臭を謳った製品は市場に多数出回っています。

そんなとき、たまたま店舗の改修に際して清掃等を依頼した業者が、「オゾンによる消臭を行ってはどうか」との提案をしたので、これらの製品の「『オゾンによる消臭』とは何か」というのが改めて気になり、調べてみました。
長くなるので以下3回に分けて記述してみたいと思います。

オゾンによる消臭

Amazon には、以下のような「オゾンによる消臭」を謳った製品が数多く出回っています。

これらはいずれも、低濃度のオゾンを発生させ、それによって消臭を行うという謳い文句がなされています。

では、「オゾンによる消臭」とは何を指すのでしょうか。
各種参考文献の調査に加え、自分で試した結果を含めて検証してみました。

オゾンによる消臭の原理

以下は商品の謳い文句の他、かなりの部分を次の文献を参考に記述しています。
そちらも充分読みやすいので、そちらを読んでみるのも良いでしょう。

たとえば、臭いの大きな原因の一つの硫化水素は、以下のように酸素・水・硫黄に分解されます*1誤解されやすいが、硫黄自体は無臭。

\mathrm{H_2S}+\mathrm{O_3}\rightarrow\mathrm{O_2}+\mathrm{H_2O}+\mathrm{S}

同様にアンモニアは、窒素と水に分解されます。

\mathrm{2NH_3}+\mathrm{O_3}\rightarrow\mathrm{N_2}+\mathrm{3H_2O}

またこれは、吸着などによらず化学反応により消臭が行われることを示します。
したがって、必ずしも全ての臭いの原因物質に対して消臭を行えるわけではありません。
例えば、「石油の臭い」「アスファルト臭」「金属臭」のような臭いに対してはオゾンは反応しづらく、不適当といえるでしょう。

もっとも、これは大した問題にはなりづらいのもまた事実です。
日常生活において主に問題となるのは、たとえば下水やトイレの臭い・下駄箱の臭い・体臭などといった「生活臭」であり、これらの原因物質に対してオゾンは反応を起こしますから。

市販のオゾン消臭器の問題点

以上のことをかいつまんで述べると、オゾンによる消臭はオゾンが分解されるに際して行われるものであり、空間にオゾンそれ自体を滞留させる意味はありません。むしろ、オゾンの有害性を考慮すれば、不要なオゾンは分解してしまった方がいい。

そして、オゾンがいかに不安定な物質とはいえ、そのすべてが自然に分解されるまでにはある程度の時間を要します。

しかし、安価な――数千円レベルの――市販品でこれを考慮したものは存在しません。

たとえば、上の製品・富士通ゼネラルのプラズィオンシリーズはこの点を考慮しているのですが、安価なモデルでも1万円台・2万円弱と決して安価ではありません。

では、オゾンの有害性とは何なのでしょうか。

オゾンの危険性

オゾンの有害性は、対人(対生物)・対物双方について考慮する必要があります。

人体(生物)への危険性

出典:オゾン利用に関する安全管理基準内、「平成15年度省エネルギー型廃水処理技術開発報告書(NEDO)」の引用より。

空気中濃度[ppm] 影響
0.01 敏感な人の嗅覚閾値
0.01 ~ 0.015 正常者における嗅覚閾値
0.06 慢性肺疾患患者における嗅気能に影響ない
0.1 正常者にとって不快。大部分の者に鼻、咽喉の刺激
労働衛生的許容濃度
0.1 ~ 0.3 喘息患者における発作回数増加
0.2 ~ 0.5 3~6時間暴露で視覚低下
0.23 長期間暴露労働者における慢性気管支炎有症率増大
0.4 気道抵抗の上昇
0.5 明らかな上気道刺激
0.6 ~ 0.8 胸痛、咳、気道抵抗増加、呼吸困難、肺のガス交換低下
0.5 ~ 1.0 呼吸障害、酸素消費量減少
0.8 ~ 1.7 上気道の刺激症状
1.0 ~ 2.0 咳嗽、疲労感、頭重、上部気道の乾き、2 時間で時間肺活量の 20%減少、胸痛、精神作用減退
5 ~ 10 呼吸困難、肺うっ血、肺水腫、脈拍増加、体痛、麻痺、昏睡
50 1時間で生命の危険
1000 ~ 数分間で死亡
6300 ~ 空気中落下細菌に対する殺菌
  • 急性毒性
    眼球,皮膚および呼吸系粘膜の刺激に始まり、咳、頭重、胸痛、呼吸困難、脈拍増加、麻痺、昏睡し、死に至る。
  • 慢性毒性
    繰り返しの暴露によって、呼吸器系機能障害や感染性疾患に罹患しやすく、めまい、頭重、頭痛、神経過敏、倦怠感や不眠を訴える。

上記のように、オゾンは人体にとって有害な物質です。
これはオゾンが光化学オキシダント(光化学スモッグの原因物質)の主要な物質の一つであることからも明らかでしょう。

一方、オゾンによる中毒死という事例はありません。
これはおそらく、そもそも硫化水素や一酸化炭素などと違い致死量の高濃度のオゾンが身近で自然に発生する物質ではないこと、独特の刺激臭・目などへの刺激が発生するため避難しやすいという点によるのではないでしょうか。

ただし、上記の表の目安はあくまで人間に対するものであること、また、刺激などを感じて避難できるのはあくまで人間の知覚によるものであり、例えば動物・植物などはこれを察しても避難しきれないことがある点には注意を要します。特に、自力での移動ができない植物についてはこれが大きな問題となるでしょう。

物体への危険性

以下の特性表もご参照ください。

オゾンは強力な酸化力を持つため、生物のみならず物質に対しても悪影響を及ぼす可能性があります。

工業用途で高濃度のオゾンを発生させた場合はまた別ですが、一般生活上(市販の機器で発生させた場合)であれば、ステンレス等耐食性に優れた金属やガラス・石英、または多くの樹脂類であれば比較的影響はないのですが、オゾン酸化のメカニズム上、炭素-炭素二重結合を持つ物質は容易に劣化が生じます。

たとえばこれは非常に有名な例ですが、天然ゴム・合成ゴム・ニトリルゴムなどといったゴム類は非常にオゾンに弱い物質が多く、容易に劣化を生じます。ゴム製品、例えばタイヤ類に生じる亀裂・「オゾンクラック」という単語を聞いたことがある方も多いでしょう。
また、樹脂類の中でもナイロン・ポリエステルなどはオゾンに弱い部類に入ります。

厄介なことに、これらは人体に対して悪影響を及ぼす濃度、労働衛生的許容濃度の 0.1[ppm]以下であってすら劣化を生じる危険性があります。
タイヤなどの保管場所について、モータ、例えばエアコンの室外機等を避けるようにとの注意書きを見たことがある人もいるのではないでしょうか。これはまさに、モータ等の高電圧(放電)により、人体には影響がなくともゴム等には影響が出る程度のオゾンが発生していることに起因します。

今回のまとめ

  • オゾンは生物・物体それぞれに対して有害な物質である。
  • オゾンによる消臭は、オゾンが分解されるに際して行われる。したがって、空間にオゾンを滞留させる意味はない。
  • しかし、市販の安価な消臭器でこれを考慮した機器はまず存在しない。

次回は、オゾンの濃度の簡易的な計算式についてまとめてみます。

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前回に引き続き、今回はあるオゾン生成能力[mg/h]を持つオゾン生成装置を一定期間稼働させた場合、空間内のオゾン濃度がど…

注釈

注釈
1 誤解されやすいが、硫黄自体は無臭。
どうしようもない雑記を書いてる場所だよ